その通りには朝早くだというのに、多くの通行人が行き交っていた。

ウルシュラ帝国との国境に近いこの街は、多くのマギやその操手、兵士達が駐留しており、彼らと彼らの家族を目当てとした商人達で賑わいを見せている。

更にマギの製造を中心とした工業も盛んで、剣や鎧などの武器も豊富に売られていた。また、現在人口の増加に合わせた街の拡張も行われており、作業用マギによる城壁の増築や、建物の建設も行われている。

そんな街の名は、「メルテア」。今大通りを歩いている、彼女(・・)の工房がある街である。

「あーもう、あいつらー……ちょっとは工房長を敬いなさいっての」

ぶすーっとした顔で愚痴を言うリリア。大股に歩くその姿から、彼女の怒りが伝わってくるかのようだ。

「そりゃ疲れは溜まってたけど、休ませるにしたってやりようってもんがあるでしょーが。何よあのやり方、私は子供か!」

行き場の無い怒りを乗せ、道端の小石を蹴る。

今日一日は休んでこいということで工房を締め出されたリリアは、疲れていたこともあって一旦はベッドに入った。

しかし徹夜を続けたせいか寝付けず、気付けば机の上で資料の作成をしていた。日も昇ってきてお腹もすき始め、たまにはお気に入りの場所で仕事をするのもいいかなと思って街へ出たという次第である。

工房員達の気遣いは理解してるし、多少なりとも休みを取る必要があるのも分かっている。一々礼儀がどうのというつもりもないし、リリア自身堅苦しいのは苦手なため、気安い態度も仕事に差し障りが出る場合を除いて許していた。

しかし、である。あのやり方はないと思うリリアであった。

(もう少し威厳を身に着けた方がいいってことなのかなあ。胸に付けてるコレも、あんまり効果がないみたいだし……)

ちらりと、胸の「賢士徽章」を見やる。魔道師の、貴族の証でもあるそれ。しかしこれを身に着けていようといまいと、工房員達の態度が変わったことは無い。はあとため息をつき、肩にかけた鞄をかけ直した。