水だけでじゃぶじゃぶと顔を洗い、水滴を滴らせながら歯を磨く。石鹸を頬と口の周りに擦りつけ、目地もヒビもカビが埋め尽くしたタイルと白いウロコだらけの鏡に向かって髭を剃る。剃り終わるとまた顔を洗って石鹸を落とし、ついでに寝ぐせの頭皮まで水をかける。風呂場から出ると鳥肌はいよいよ隆起するがタオルはなく、水を滴らせながら台所に出て流しの取っ手にかかったタオルを取る。据えた醤油の臭いが肌につく。頭にタオル…
[連載]小窓の王
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小説『小窓の王』【第2回】原 岳
遭難事故報告書と彼の登攀道具をバッグにしまう。彼のことは、ほとんど知らない。彼の葬儀で、少しは聞いたが…
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小説『小窓の王』【新連載】原 岳
【山岳小説】あの遭難事故以来、こんなことが続いている…手の指がない。握ると、握りようもない三指の断面がギロリと露わになる
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