彼にとってこのことは全く言語表現で説明できず、心と体のはざまで受けた感触で何となく察知できるような気がするとしか言いようがない。
性的な欲求など全く自身の身に感じない時なのだろうか、そのような状態に恭子がいると判断した場合、彼は彼女と二人きりになっても全く挑発的な言葉も振る舞いも受けることはなかった。
性的欲求を強く持っている時の恭子はほとんど言葉を発しないことが多かったが、彼女の肉体が「落ち着いてしまっている」と考えられる時の彼女は饒舌だった。
多方面の話題を口にしたが、その中でもやはり絵画をテーマにすることが最も多かった。そのようなときには、来栖のほうは後にも先にも恭子のもとで初めて絵の見方を教わったという満足感を覚えることもあった。
恭子のほうは性的な充足感を得ることに集中していると来栖に思えた時でも、身ごなしではあくまで優雅に振舞おうとする。
彼はいつも彼女の欲求の有無というものを単純に言葉でのコミュニケーションの寡多で察知するようにしていた。