ところがそのときにはどういうわけか当然のこととしてすべてを受け入れているのです。これが私には一番解せないことでした。
『ご覧なさい、傍らを通り過ぎ部屋に入っていかれるこの人たちは古代平城朝の人たちで、私たちって、はるか昔の時代に引き戻されたのよ。この町は千数百年も前なら、このようなたたずまいを見せるところもあったのかもしれないわね』
私ははっきりと自分の肉声が語るのを聞いていて、それを自分でも確認できているようです。だけれども、なんとなく上品ぶった感じで、他人の声のようにも思えます。
それに、お坊さまに向かって言っているような、そばにいるとわかった兄だけに語っているような、これもどちらともはっきりとはわからないのです。それに時代の名前を指して言っていたはずとは自分でもわかるのだけれど、『平城朝』とここで書いているのは想像上の当て字で、他の文字を当てるほうが良いのではとも考えているぐらいです。
ともかく自分の発音がヘイジョウチョウと耳に達したので、そのまま音を再現してみました。それに自分の肉声だと考えたのに、今となっては『へいじょうちょう』と発音したのか『へいじょうきょう』と発音したのか、それすらも自信がない有様です。お坊さまらしき人が私にさらに話しかけてきたときには、どういうわけか私のほうは何も返事を返せず、兄もいなくなっている状況に変わってしまっていました。
見知らぬ人たちの中にぽつんといて、所在なげな自分を見出すばかりです。その後のことも不思議なのですが、今度はお坊さまと二人きりになっておりました。彼に問われたときからだいぶ時間が経ってしまっていると思ったのですが、今度は兄ではなくて私のほうが彼の以前の質問に答えていました。
そこでやっと気づいたのです。かしこまったような、文語というのでしょうか、普通書き言葉で使うような言い回しで話しているのです。
でもこの夢の中での話し合いを思い出しながら、こうだったろうと、そのまま書いてみます。夢の中の話だし、耳で聞いたことを文章に書き直したので何か間違って覚えてしまったこともあるかもしれません。
多分こういう漢字を当てるんだろうと、推し量って書き記したところもあります。ですから表現や漢字の間違いなどあれば、どうか大目にみて下さい。