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心菜さんとは、すっかり打ち解けてしまい、その後もしばらくメールのやりとりを続けていた。そこで新たに知ったことが、いくつかあった。
まず、心菜さんは、夫と知り合った時に、お付き合いをしていた人がいたということ。「独身」で、そのうえ「一緒になろう」みたいなことを言われてすっかり信用して、その人を振ってまで孝雄と付き合い始めたのだそうだ。
なのに、それが全部嘘だとバレた途端、お詫びの言葉が一切ないどころか、何の説明もなく一方的に関係を切られてしまい、心菜さんが、ちゃんと話をしたいと思ってメールしても、孝雄はまったく返信してこないという。
そしてもう一つ。
心菜さんのお店には最初、取引先の人たちと三人で行ったらしい。誰も常連ではなかったので、偶然入ったのだろうと。心菜さんいわく。
〈まじめに考えてるって思わせておいて、なんか、なめられた感があります。不倫はそれまでにも経験したことがあったけど、こんなに不誠実なのは初めて。というか、もう不倫はしないって思ってたのに……。所詮(しょせん)私は、初めから遊びだったんでしょうね〉
きちんと仕事をしている人が世の中の大半を占める中、旦那とその取引先の連中は何をしてくれているんだろう。
女性を、嘘を纏(まと)ってくどき、被害者をつくるだけの、くだらない集団……。
私もこんな状況で結婚生活を続ける自信はまったくなく、心菜さんと知り合ったことで、いったんは夫を訴える協力を仰(あお)いだが、どうしても必要というわけではないのだし、彼女は巻き込まないほうがいいだろう。
心菜さんにとって何もいいことはなく、もっと苦しくなるだけだろうから。
――と、そんなふうに彼女のメールを見ながら思い、私は改めて、夫と独りで闘おうと決めた。これ以上、被害者が出ないことを願いながら……。
その日の夜に夫の携帯電話をチェックしてみると、ただ一言、〈バイバイ〉と書かれたメールが、心菜さんから届いていた。
たのしめた
そのとき
このとき
わすれない
いくつになっても
あなたのこころに
たのしもう
このときあなたは
ほんとにたのしい?
たのしめる
そんなひととき
たいせつに