ちょっと見せてくれ、と頼むと、必ず返してよ、と念を押して貸してくれた。僕が喜び勇んで、いそぎ去ってゆく背中から、彼が言葉を継いだ。
コピーなんかして、みんなに見せないでよ! 僕はその足でコピー機のある生協へ向かった。
大学生協は一種のオアシスだった。勉強、欲求不満、恋愛のもつれ、留年の危機、ここの自動販売機や喫茶部、書籍部、食堂はさまざまなストレスの、多少のはけ口となっているのだった。
生協は本学にもあるが、この大学では医学部が20キロほど離れているので、ここにも独立した医学部生協があった。3階建ての、幾つかの部室や正体不明の部屋がたくさんあって、空き部屋を探して入り込むと何でも出来そうな気がした。
生協の喫茶部で、自分用に作成したコピーをぱらぱらとめくりながら、高尾の言葉について考えてみた。別に他の人に見せる気はなかったが、なぜ皆に見せてはいけないのだろう。これは彼だけの秘密なのだろうか。
しかし元々彼の持ち物だから、勝手なことはできない。とにかく、面倒なことには巻き込まれたくないのだろう。貸してくれた好意に感謝して、人には見せない、語らないことにしよう。
そう考えながら、自分たちがこれまでしてきた所まで目を通してみる。これまで既に終えたところは、復習になる。自分の見過ごしたところもあって、はっとした部分もある。
人によって、着眼点が異なるものだ、と再認識した。