馬の夢

夢の中でフォールは、一頭の馬の手綱を引いて囲いの中で歩かせている二人の男を眺めていました。その馬は見事なサラブレッドの栗毛で、額には白い星のしるしがありました。

【関連記事】「出て行け=行かないで」では、数式が成立しない。

手綱を引いていたほうの男が近づいてきて、フォールに手綱を渡しました。フォールは、その馬の美しさと見事さに完全に圧倒されていました。こんなに見事な馬はそれまで見たこともありませんでした。

本当に見事でした。それは神聖な馬だったのです。彼は恐るおそる馬の毛を、首と頭を撫でてみました。すると突然、馬がさらに近寄り、頭をフォールの胸に埋めて、とっても優しく鼻をすり寄せてきたのです。

フォールは無意識のうちに愛の言葉をささやいていました。すると、信じられないことが起こりました。その馬が頭をあげ、フォールのほうをまっすぐ見つめて、まるで礼拝でもするかのように、彼の前に跪いたのです。

果てしない愛の波が、フォールをおそいました。彼の心は、溶けてどんどん広がっていくようでした。そして馬は、柔らかい芝のうえにそっと横たわり、フォールにお腹を見せながら、フォールの顔をじっと見つめたのです。

そのお腹はとても柔らかく、琥珀色と白い毛で覆われていました。それは至福のひとときでした。フォールは放心状態で目覚め、このとてつもない喜びが自分の心を、体じゅうを満たすのを感じました。

これほどの愛がこの世にあるとは! それなのに、彼の頭は、そんなはずはないという思いで、ぐるぐる回っていました。どうして、こんなことが起こるんだろう? どうして、神聖な馬が目の前で身をかがめ、自分のようなちっぽけな人間に跪いたんだろう? まるで、あべこべじゃないか。

彼はただわけがわからず、それを受け入れることができずにいました。ふと気が付くと、彼はもはや一人ではありませんでした。

そこには、フォールが至高の神と思っているあの偉大な熱いお方がいたのです。彼の頭の中で再び声が響きました。

「何があったのだね、フォール? 大きな者が小さな者にお辞儀をしたことかい? 小さな者なんていないよ、フォール。お前はこーんなに大きいんだ。お前が覚えていないだけなんだよ。

神であるわたしが、いのちを与えたほどにお前を愛していることが、いのちの種を信頼してお前の中で育てたことが、そんなにあべこべなことなのかね? あべこべとは、そのように考えないことのほうだよ。