猫のミミ
おじいさんがトイレに行くと、ドアのところまでついてくるようになった。出てくるまで、じっと待っていたそうだ。
風呂に入ると、とちゅうでドアのガラスに爪を立てて、“早くあがれ”とさいそくしたらしい。おじいさんは、浴そうの中から、スリガラスに映るカギしっぽを見るのが楽しみだったらしい。
食事の時間もミミと一緒じゃった。ミミの好物のかつお節とのりは、切らしたことがなかったそうじゃ。
おじいさんが猫缶を開けると、かならずピクッと大きな耳を立てた。ミミは聴覚がずばぬけているらしい。
そのうち、おじいさんは天国のおばあさんにも話しかけるようになった。ミミの毎日のようすを伝えだしたんじゃ。シマオとミミをくらべたり、おばあさんの世話を思い出したり。
「ばあさんも覚えとるじゃろう。ある晩ちゃぶ台の上のわしの焼き魚を、シマオがサッとくわえて逃げた。わしはもう腹が立って腹が立ってのう、シマオがあせって魚を食べている時に、頭をごつんとたたいてしもうた。それからのシマオは、わしに距離を置くようになったんじゃ。その時は猫の気持ちが、まったくわからんかった。今なら、いくらでも食べさせてやるのにのう」