小樽幻想

「迷惑だ!」と思ったが、おじいさんの頑固そうな顔を見て透はしぶしぶ承諾した。透とおじいさんが運河の方へ向かった途中、親友の裕次郎が営んでいる鮮魚店が見えて来た。

丸っこくって人なつっこい顔で威勢よく観光客に話しかけている。ああ奴は相変わらずだな。人のいい笑顔で邪気がない……。

急に立ち止まった透は、自分がここに来たきっかけやクラス会を欠席する事を思い出し、「こっちに行けば海猫屋でしょ。そこに行ってみたい」そう言って角を曲がった。すると、おじいさんは「こいつ昔、『海猫屋の客』という小説を読んだのかな」と思う。

角を曲がると、大きな2棟のマンションが見えて来た。透は嫌な予感がした。想像以上に景観が悪くなっているのではないか。築港で感じたざわめきが心に吹き荒れる。

海猫屋に着いた。しかし透には何の感慨もなかった。そこはもう、違う店になっていた。透は、「運河に連れていってくれ」と言った。