「なんか否定してほしくて……」
「否定?」
そう、僕はこの襲ってくる絶望的な妄想を少しでも満里奈に「それは考えすぎだよ」と否定してほしかった。
あの妄想が本当に現実にあり得たなら、僕は耐えられなかった。自分が大切にしてきた宝物が、あんなオヤジに雑に遊ばれていたなんて少しでも認めたくなかった。せめてそのオヤジにも大事に扱っていてほしかった。
それか逆に満里奈の方が遊びで、キツネ目オヤジの他に男もいてそのオヤジをもて遊んでいてほしいくらいだった。それか愛人としてきちんと契約して、体の対価にそれなりにお金を貰っていてほしかった。
それはそれで別のキツさがあるだろうが、まだそっちの方が楽な気もしていた。満里奈がそのオヤジを無償で愛していたことがなによりもキツい。
じゃないと、僕はなんかそのオヤジに大差で負けている感じがするのだ。
「てかさ、満里奈が始めたことだよ。この話」
思わず攻撃的な言葉が出た。そのとき、僕は気が付いた。満里奈の発言にイラッとした自分がいたことに。
「もともと、満里奈があの旅行でさ、お風呂で酔っぱらってこの話したんだよ。あのときは俺もそんなこと気にしないって言ったけど、やっぱりキツイよ。気にするよ。
墓場まで持って行ってよ、こんな話。誰かに話して楽になりたかったとか、俺にだったら全部話して受け止めてもらえると思ったかもしれないけど、俺だってこんな話知りたくなかった。知らなかったら幸せだった。
それを自分から一方的に話して、もう聞かれるのきついからこんな話しないでって。無理だよ、もう俺は気にしちゃってんだよ」
完全に本音だった。でも辛い思いをして、僕を信じて話してくれた満里奈を責めることだけはやめよう。そう決めてたはずなのに、僕はもう言ってしまったのだ。
次回更新は5月15日(金)、21時の予定です。
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僕はおかしくなっていた。僕は家を出る彼女の背中に「ごめん……」と小さく呟いたが、その声は多分届いていなかった。