「なんや……お前……」
ヤンキーも急な僕のファイティングポーズとステップに明らかに戸惑っているようだ。
「ホントすいません! やめましょう!」
福山が慌てて、間に入る。ヤンキーはしばらくこちらを睨みつけていたが、なぜか向かってくることなくそのまま車へ戻った。
そして、窓を開けて「次会ったら、さらうからな!」とだけ言い残して去っていた。
僕の急なファイティングポーズに「こいつ、なにか格闘技やってる!」と思ってビビったのか、「ヤバい、こいつ変なヤツだ!」と思ったからなのかは分からないが、とにかくヤンキーは去っていった。
福山は僕に土下座する勢いでお礼を言い、冷静になった後に爆笑し始め、そこから僕らの中では「来いよ」というギャグが流行った。
ただ、なんにせよ僕はこの一件で少し自信を取り戻した。ヤンキー相手に逃げなかったこと、そして思いの外、力がついているのを実感できたこと。
次の日、僕はジムに行った。会長はまだ来ておらず、ジムには谷岡さんだけがいた。僕はすぐに着替えると、グローブをはめて谷岡さんに言った。
「スパーリング、お願いします」
大学三年生の冬。気が付くと、ボクシングを始めて二年が経っていた。
最近は大学のゼミも少しずつ忙しくなりジムに行ける回数は減ってきていたが、鳥の巣頭ヤンキーとの一件で自信を取り戻してから、僕はよりボクシングに燃えていた。
谷岡さんとのスパーリングでは、相変わらずボコボコにされていたが、以前の僕とは違った。前までは正直、少しでも怪我をしないようにとガードを固め、攻撃をまともに喰らわないように気を使って戦っていた。
でもあの鳥の巣頭ヤンキーとの後からは、僕はどこか吹っ切れて怪我しても知らないくらいの勢いで向かっていっていた。そうすると今までは全く当たらなかった僕のパンチも谷岡さんに少しずつ当たるようになったのだ。
一度僕の右フックが当たったとき、谷岡さんがグラついた。
そして、終わった後に初めて褒めてくれたのだ。
「お前、なかなかパワーついたな。試合のときも、それを出せよ」と。
筋トレも本格的にしていたため自分でも多少パワーはついてきたんじゃないかと思ってたので、これは嬉しかった。ただ、怪我しても知らないくらいの勢いで毎回向かうものだから、鼻が少し曲がったり、顎はズレたりした。
でもビビって逃げるよりもずいぶん戦い終わった後の気持ちは楽だった。毎回それくらい捨て身の気持ちでスパーリングをしていると、自然と試合でも緊張はしなくなっていくもので、二回目の試合。僕は勝つことができた。
次回更新は5月1日(金)、21時の予定です。
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ヤンキーへの復讐も、本物の強さもどうでもいい。なぜならこの"大学デビュー天下取り物語"は、僕の恋愛に関する物語でもあるからだ。