オレとボクの秘密

登場人物

山下恵一(けいいち) (東京の総合病院に勤務するガン治療のエキスパート 独身 五十九歳)

清水由起夫(ゆきお) (東京の下町に住む溶接工 バイクで暴走行為を繰り返している 二十歳)

井村マリ (清水由起夫の幼なじみで恋人 二十歳)

水沢早智子(さちこ) (山下恵一医師が働く病院の救急病棟に勤務する看護師 三十一歳)

三月一日深夜

♪『15の夜』作詞・作曲・歌 尾崎豊。

総合病院の救急医療現場。舞台中央にベッド。金髪の青年清水由起夫が心肺停止の状態で横たわっている。看護師の水沢がAEDの準備をしている。機器の作動音、医療スタッフの声が響き渡る。

水沢 先生、お手伝いありがとうございます。ホント助かります。

恵一 久しぶりだから自信ないんだけど。他の人に頼めない?

水沢 みんな救急で手が離せないんです。お願いします。

恵一 分かりました。じゃあ……失敗しても知らないからね。

医師山下恵一がAEDを両手に持ち、由起夫の胸に当てる。電流が流れた瞬間、強い光と激しい音。恵一は倒れ込む。

暗転

三月七日

上手下手のベッドに恵一と由起夫が横たわる。二人の意識は戻っていない。由起夫のそばには恋人の井村マリが深刻な表情で立ち、恵一には看護師の水沢が付き添っている。由起夫が目覚める。

由起夫 ああ。

マリ 目が覚めた!? 由起夫、由起夫。良かった!

由起夫 だれ?

マリ 私。

由起夫 だれか分からない……ボクどうした?

マリ 六日間も意識がなかったのよ。毎日、死ぬんじゃないかって心配して……。

由起夫 今日は何日?

マリ 三月七日。

由起夫 どうして六日も?

マリ 三月一日にバイクで環八暴走してて、パトカーに追跡されて、ガードレールに。

由起夫 ぶつかった?

マリ 憶えてない?

由起夫 憶えてない。

マリ 私のことは?

由起夫 分からない……誰ですか?

マリ ホントに? ……ううっ、だからあれだけ言ってたのに。一人で暴走族やってる歳じゃないでしょう!? もう二十歳過ぎてるんだから、いい加減落ち着いてよ!

由起夫 バイクで暴走? 人様に迷惑をかけてる? そりゃダメだ。

マリ そうよ! やっと分かってくれたのね? そりゃあ、そうよね。こんな事故起こして、命が助かっただけでも奇跡よ! ちょっと頭が混乱してるだけよね。っていうか、事故の前から、少し変だったけど。大丈夫、私がついてるから。ゆっくり思い出せばいいよ。