読みかけの本をデスクに戻し、掛け布団を頭まですっぽりかけて寝ることにした。頭の中では走馬燈の如く、いろんなことがグルグル巡るが何一つ解決に結びつく名案が浮かんでこなかった。
寝不足のまま朝を迎え、何事もなかったように悠真と美月を観察した。二人は無言で食事を終えると、悠真は仕事場の事務所に向かった。
山形家の朝食はいつもトーストにジャム、そして季節の果物、ヨーグルトと牛乳が定番になっている。今朝のトーストがブドウ入りだったので美代子はジャムを付けないでバターだけをたっぷり付けていた。
「美月さん、このブドウトースト美味しいわね。久しぶりよ」
「そうなんです。最近駅の近くにパン屋さんが出来たので、買ってみたの。美味しいのが評判になり昼前には売り切れなんです。だから、多めに買って冷凍しておくんです」
「そうなんですか、冷凍はいい考えだわ」
美代子は観察気味に美月の顔の表情を見ていたが、特にいつもと違うような様相ではなかった。でもどうしても引っかかることがあった。
あの夜中に聞こえたのは女性の声、この家には私以外、美月さんしかいないから、どうしてあんな時間に悠真の部屋にいたのか解せない。しかし一方で、美代子は嫉妬心とか敵対心など、全然湧いてこないから不思議、冷静になっている自分が怖いと感じていた。
悠真に問いただす気はしなかった。裏を返すと悠真に対する愛情が薄いものなのかもしれない。私たち夫婦は同居人と割り切っていたから、冷静になれたのだ。
もう少し今後の様子を見てみようと思った。