トシカツの大失敗
しかし、GPSはまだ生きている。スマホの中の点はまだ動いている。享子の動きが、手に取るようにわかる。怖いくらいに。
まるで神にでもなったような気分である。享子がコンビニに寄ったり、歯医者に行ったりと、束縛欲、独占欲の強いトシカツには最高のオモチャだ。
奇襲から2日目。Aからトシカツに電話が入った。「別れ話をしてきました」と。
だけどトシカツは知っていた。前の日、享子の点が北区の家から住町まで動き、止まる。そしてすぐ近くのファミレスまで動き、1時間ほど点が止まった。
それから点が動き出し、住町に戻り、2分もしないうちにAを降ろし、享子がアパートに寄る時間もなく、点が動き出し、そのまま北区の家に戻っている。ファミレスで別れ話でもしたのだろうとわかる。
それを裏付けるかのようなAからの電話だ。もう神の領域だ。トシカツのこののぼせ上りが、この後とんでもない失敗につながる。最後までしこりを残す取り返しのつかない大失敗をしてしまうのだ。
GPSはまだ生きている。次の日、点は住町に向かう。
しかし10分もしないうちに帰っていった。トシカツはすかさずAに電話した。
「享子は何しに来た?」
Aは突然の電話に驚いたようだ。
「別れないで、って言いに来ました」
「家に入れたのか?」とトシカツは聞いた。
「いや、部屋には入れずに帰ってもらいました」
「そうか」と電話を切る。
燃え上がるような嫉妬、地獄の中の灼熱地獄、怒りの沸騰! そして怒りのまま、享子が住町を出てから20分も経たずに、トシカツは享子の携帯にラインをしてしまった。
内容はこれだ。
「別れた男にヨリ戻したいだなんて恥ずかしいことするなよ!」と。
あー! やっちまった、やっちまった。GPSの取説に書いてあった。追跡していることを相手に悟られる言動はしないことと。
もう吐いた唾とメールは飲み込めない。享子はあまりにもトシカツのタイムリーなラインに「何で? なぜ?」と疑いの塊になる。
この塊が、この後の「享子VSトシカツ」の火種になる。結局トシカツは自分の送ったメールで自分自身の首を締めることになっていくのである。