1週間ほどで物が来た。トシカツは恐る恐るのぞき込む。まるで犯罪者が危ない密輸品を受け取ったみたいに、ドキドキしながら箱を開ける。小さな箱の中に、縦10センチ横5センチくらいの機械と説明書が入っていた。まるでトシカツは、映画『ミラクル・ワールド・ブッシュマン』のコカコーラのビンを初めて見た主人公みたいに、上から見たり下から見たりいじり回す。

まず、説明書通りにアプリをインストールして試してみると、何とビックリ。出る! 出る! 手のひらの中のこんな小さな携帯の画面の中に、自分のいる場所が点となって出ている。とりあえず自分の車に載せて走り出してみる。動く、動く。地図上の点が走り回る。

誰が発明し開発してどんな仕組みなのかもわからないけど、この機械のある場所が、携帯の画面の地図にリアルに点で出るという現実が、今ここにある。ドラクエのゲーム風にいえば、トシカツは強力な武器を手に入れた!ということか。実験もクリアして、準備万端いよいよ実践、決行の時が来た。ミッション・インポッシブルの始まりだ、槇原敬之の曲の『SPY』が流れる。

トシカツは、だいたい享子の時間的な行動は把握している。享子は夜の11時に仕事開始だからその時間を見計らって、享子の勤めるスーパーの駐車場に向かう。そして享子の車を探し、見つけ出した。

胸の中に秘密兵器を隠し持ち握りしめ、トシカツはまるでどこかのやくざの組長の命を狙う鉄砲玉のような面持ちで、周りを気にしながら車に近づく。もともと臆病で小心者のトシカツだから、ドキドキと口から心臓が飛び出しそうになる。嗚咽しそうになるのをこらえて、そっと享子の車に近づき、アパートで何回も練習した通り、スッとかがんで強力な磁石付きのGPSを後ろのタイヤの近くに付けた。

不審者と思われないように気にしながら、あまりキョロキョロせず、走り出したい気持ちを抑えてゆっくりと歩き、その場を離れた。ドキドキしながらアパートに帰り、渇いた喉にビールを流し込む。飛び出し掛けた心臓と一緒に。一息ついたら思考回路が戻る。賽は投げられた。あとは野となれ山となれだ。