【前回の記事を読む】作品集「黒い花Ⅱ」より三作品

静かな山で──

山々は青白い霧の中で静かに待つ 日は空をガランス色に染めて落ちる

遠き山へ、あこがれの届かぬ彼方へ 果たせぬ夢と現実のシルエットを浮かび上がらせて

日は一瞬最後のまたたきをして 山の端に隠れた、

空は赤みを増した静寂、華麗、神秘、永劫、

そしてこの一瞬山の黄昏(たそがれ)はいつものようにひっそりと暮れて行く

見返れば淡いバイオレットブルーの空に 青白い光を放って月が浮かんでいる

街の光の上に、あの女ひとの住む街の上に

春の近づく山は冬の名残(なごり
 

(いろ)濃く残る雪が夕闇の中に黒く汚れて ぼんやりと浮かび上がっていた