ゴリラのご飯

赤いレンガのビルの2階によく通っている耳鼻科があります。院長先生はマスクをはずすとアゴの長い人で、語尾に「ヘーヘーホーホー」と、よくわからない相づちのようなものを付けます。

「今日はどうしましたか? ヘーヘーホーホー」

「大丈夫でしょう。ヘーヘーホーホー」という具合です。

診察が終わって待合室に戻ると小さい子供がいっぱい。私は目立たないように長椅子の一番端の壁寄りに座ることにしました。

坊やが絵本を読んでいます。

「ゴリラの、こはんは、ハナナです」

(まだ濁音が上手く読めないんだ)

するとお母さんが「ゴリラのご飯はバナナでしょう」と目くじらたてて読みなおしました。

坊やのほうは馬耳東風。平気な顔をしています。

「ゴリラの、こはんは、ハナナです」

「どうしてゴリラのゴが読めて、ご飯のごが読めないの!」「バナナのバが読めないの!」

私は支払いを済ませてクリニックを出ました。

「ゴリラのこ飯はハナナです」

アレ~、呪文のように頭から離れません。