① 夏休みに話を戻す。毎日違うところを走っていたある日、海沿いの道を走り、少し疲れたので、空き地でバイクを停めてランチタイム。コンビニで買ったお茶と自作のおにぎり(ガソリン代節約のために昼食は自分で作っていた)を食べながら海を見ていた。正確にはバイクに寄りかかりながら海を見る自分を楽しんでいた。
しばらく自分に酔っていると、バイクの音が聞こえてきた。以前の俺ならバイクの音を聞いたら、ライオンの鳴き声を聞いた草食動物のように一目散にその場を立ち去っていたが、自分がバイクに乗るようになってからはバイク乗りに対して妙な親近感を抱き始めていた。
そしてバイクに乗り始めてからの俺は他人のバイクを見ながら「ふっ、良い音させているな」と謎の上からコメントを残して走り去るというおかしなマイブーム到来中だった。
俺はバイクの音のする方へ向かっていった。もし明らかにヤバイ連中だったらそのときは逃げればいいと思っていたし、このときは昼間だったから離れた場所で車種を確認するぐらいなら大丈夫だと思った。空き地にやってきたバイクは3台。XJR1200、GSX1300R通称ハヤブサ、ホークII、どれも雑誌でしか見た事がなく、かっこよかった。
バイク3台で人間が4人確認できた。中型バイクに乗っている俺にとって大型バイクはちょっとした憧れでもあった。4人のうちの1人は女性らしく、女性がギャラリーをする中で3台のバイクはウィリーやジャックナイフ(ウィリーの逆で後輪を上げて前輪でバランスをとる技)、いわゆる曲乗りを始めた。
……感動して目を奪われた。自分がその世界に入ってみてから理解できるすごさってある。例えばギターの練習をして少し弾けるようになってテレビでプロのギタリストの演奏を見ると何気ない演奏が実はものすごい技術だったんだと解る。現在俺は会社で草野球チームに入ってるんだけど、外野フライを捕る事がこんなにも難しいってのが、自分が野球をしてみて初めて解った。
プロや高校生は勿論、少年野球の子供たちでさえあんなにも簡単そうに捕ってるから、自分が野球をしなければこんなにも難しい事だって解らなかったと思う。バイクに乗り始めてから数か月、目の前で行われている技はどれも神業、超人技で時間も忘れてただただずっと眺めていた。