洗濯日和

妊娠三カ月の夏の朝。
青い空に入道雲、照りつける日射しは眩しかった。絶好の洗濯日和。

玄関から出て西側には、地元では有名な「山々」がくっきりと見えた。この山は、福島県にある標高一七〇七メートルの山で、吾妻連峰のひとつである。冬の季節になり積雪すると、可愛い雪うさぎが一匹ピョンと姿を現わし、ポエムの世界に誘ってくれる。私のお気に入りの景色。

家族五人分の洗濯物は、かなりの量だった。物干し竿二本分とハンガーと折り畳み式物干しハンガー二個を使い切った。

干し物は、吾妻山とは反対側の西に設置されていた。この周辺は、広大な田んぼが伸び伸びとしていた。また、右手遠方には、神社が杉の木に隠れて建っている。ここでは、間もなく夏祭りの準備で、お囃子の太鼓や笛の練習の音が、鳴り響いてくる。

ふと、やがて対面する我が子たちと一緒に家族四人で手を繋ぎ、楽しそうに笑っている浴衣姿を思い浮かべた。それだけで胸が躍った。

さて、五人分の洗濯物を舅の物から順に物干し竿に干しシワを両手でパンパンと伸ばしていた時のことだった。突然、なんの前ぶれもなく大粒の水晶の玉がボロボロボロボロっと地面へ垂直に落下した。水晶の玉はオートマチック式に製造されていく。そこには、私の感情などいっさい反映されてはいない。あとからあとから落下した。水晶の玉の製造元は、何と私の内側からだと気づき驚いた。

つい先ほどまで、爽快な気分で洗濯物を干していたのは事実で決して、悲しいとか辛いと言う感情の自覚はない。自分が「石の心」になっていたことに全く気づけていなかった。破壊寸前の心を、自ら水晶の玉を製造し、体外へ流出することによって「危ない!」と知らせてくれたのだ。もし、このまま継続していたならば、完全に壊れていたかもしれない。お腹の赤ちゃんにも影響を及ぼしていたかもしれないと思ったら、鳥肌がたった。

早く気づくことができて良かった。流れた涙の数だけ、心が軽くなった。

今、現実世界の時計の秒針の速度と、私の精神世界の時の流れには、時差が生じていた。私のそれの方が、ゆっくり進んで行った。それは多分心に余裕ができたと言うことかもしれない。

私は、再び空を見上げた。

果てしないこの宇宙は、私の味方なのだと全身全霊で共感した。私の大好きなふるさとの母は、毎日父の仏壇に手を合わせ、私の幸福を願っている。私は、母として生まれくる我が子に恥じぬよう、威風堂々と胸を張り笑顔で生きて行く。ようやく、洗濯物を干し終えた。ギラギラ降り注ぐ太陽の光が体中に沁み渡った。私はお腹に両手を当て大きく深呼吸をした。