不安と確認

ある日の金曜日。今日は俊さんの学生時代の友人と会食の予定、初めてお会いする方がいるので紹介したいそう。俊さんと会食のホテルのロビーで待ち合わせ。

六時の待ち合わせ場所へ着いた時......俊さんが、女性と抱き合っている。

「えっ!」

とても親しそうに、懐かしそうに話していた。私はびっくりしていたが見ていた。二度目に抱き合っている時、俊さんと目が合った。何故か私は、ふっと背を向けホテルの玄関に向かって歩き出した。俊さんが驚いて追いかけてくる。

今井さん編

ロビーで、ゆりを新聞読みながら待っていた。いきなり、女性が来て抱きついた。「えぇ!」何と五年前に別れた上村紀子だった。

「のんちゃん?」

「そう! 昨日帰って来たの。連絡しようと思っていた時、俊輔が目の前にいたの。びっくりした!」

「引き上げてきたの?」

「ええ、仕事も日本で決まったし俊輔に会いたかったの。やり直したい」

ぎゅうと、抱きしめられた。

「そうか。でも僕は結婚した。君と別れた時の喪失感で一年は辛かったが、乗り越えられて、前を向いて歩こうと決めた。そしてとても素晴らしい女性に出会えた。今は妻がいなければ生きていけないと思うくらい愛している。女性に惚れて、こんなに愛する事が出来るのだと感じている。もう君とやり直す事は出来ない。僕達はあの時に終わった。君が僕から離れた時に」

「私が側にいなかったからでしょう? 帰って来たの。あなたの所へ」

「違う。僕は君の事を愛していない。今の妻を心から愛している」

別れに軽くハグをした時、ゆりと目が合った。ゆりは僕を見て背を向けた。驚きと恐怖感で全身に電気が走った。

「悪いがもう会わない。さようなら」

急いでゆりを追った。

「待って!」

手をようやく掴んだ。僕を見ない。

「前に一人だけ、好きで別れた女性がいたと話をしたことがあるだろう。その人がアメリカから帰国したらしい。本当に偶然に、偶然に今、会った。ちゃんとはっきり話した。愛する妻がいる、君は心にもいないと」

それでも、僕を見ない。すごい不安感と恐怖感。

「僕は君が居なければ生きていけない。わかるだろう。君以外愛せない」

ようやく僕を見た。思わず強く抱きしめてキスをした。冷静になった時、人がたくさん行き来して見ていた。顔から火が出そうだった。後ろに上村紀子がいた。