心配性の母が危険だからと言って、ママ友から誘われても一度も連れて行ってくれなかったことを説明すると、叔母は私を哀れむような目で見る。
「スキーなんて、ちっとも危なくないわよ」
「でも、僕、運動神経がないから」
「大丈夫。最初にスクールに入って半日ぐらい基本を教えてもらえば、哲ちゃんも楽しく滑れるようになるって。だって、そうでしょう。雪国の子供たちなんて、運動神経があろうがなかろうが、誰でも滑っているじゃない。怖がることなんてないわよ」
叔母にそう言われると、私でもスキーぐらいはできるような気がしてきた。あのソフトボールとは違って、運動神経はそれほど必要ではないのかもしれない。
「そうだね、僕もやってみようかな」
「よし、そう来なくちゃ。じゃあ、来月、哲ちゃんのママが名古屋に行っている間に、二人でスキーに行こう! もちろんママには内緒で」
「うん!」
こうして私と叔母は二つ目の二人だけの秘密を共有することになり、その約束は翌月(一月)の第二土曜日、母の居ぬ間に実行された。ちょうど祖母も友人と九州に旅行中で、母に告げ口される心配はない。
とはいえ、証拠は残せない。スキーウエアもスキー板も全て必要なものはレンタルし、夜九時に母から定期便のようにかかってくる電話に間に合うよう、早朝に家を出て上越新幹線を使い、ガーラ湯沢で日帰りスキーを楽しんだ。
確かに、運動神経がない私でも午前中二時間の初心者スクールだけで、曲がったり止まったり……基本的なことは一応できるようになった。午後は傾斜の緩い初級者向けのコースで短時間ではあったが滑る喜びを味わえた。
何度か転んだけれど、たっぷり降り積もっているパウダースノーはフカフカのクッションのようで全く痛くない。なんでこれが危険なスポーツなのか、心配性の母のおかげでこんな楽しいことを知らずにいた自分がとても可哀そうな子供に思えたものだった。
それからも、月一回一週間ほどの叔母との二人暮らしは、私の中で密かな楽しみとなる。
母と違って大胆な性格の叔母は、毎回これまでやったことがなかったことを色々体験させてくれたからだ。