小説 『ツワブキの咲く場所』 【第3回】 雨宮 福一 「お母さん!」男から私を奪い返しその場から離れるのに必死な母。男たちは女の子を連れて草むらの間へと見えなくなり… 夢と思いたくなるような、凄惨な光景である。私の視界はとめどなく流れる涙でぐしゃぐしゃになり、もはや女の子の表情を識別することもかなわない。アパートから母が飛び出してきた。奇妙なことに、表の騒ぎに今ようやく気付いたらしい。「涼? どこ、どこにいるの!」母がそう呼ばわったけれど、私の姿は大きな草の陰に隠れて見えない。母の目にはむろん留まらず、立て続けに私の名を呼ぶ声がする。「お母さん!」私が叫び返す…
小説 『SHINJUKU DELETE』 【第6回】 華嶌 華 精神はくたくたでも、スーツと顔の皺は消した。“キャリアウーマン”だから。冗談を見極め、セクハラまがいの言動も受け流し… 自分以外の存在がすぐ隣にあることを、少女の頬に生えた細かい毛が喜美子に感じさせる。そして、少女のうなじから漂う、少女独特の甘ったるい匂いに打ち負かされた。可愛さが生きている。少女が大きくあくびをすると、あのバーでは気が付かなかった小さな八重歯が覗いた。喜美子の心が回転した。「あたしのどこが好き?」なんて訊かれたら、決して言葉にできず、とにかく全部好き!としか答えられないだろう、とファンタジックな…